CPDNPとは
所長挨拶|CPDNPとは

2014年 軍縮・不拡散促進センター就任に際しての挨拶

(公財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長就任に際して、ご挨拶申し上げます。

世界の二極対立をもたらした冷戦構造が崩壊したことにより、軍縮・不拡散促進の分野での展望が拡がりましたが、期待されたほどの成果には結びついておらず、種々の国難に直面しております。特に、主要国間関係の緊張、地域の安全保障環境の不安定化、非国家主体による脅威の増大等といった不安定要因が顕在化してきています。私は、平成18年〜21年にかけてジュネーブの軍縮会議日本政府代表部に大使として在勤しました。それから数年を経ましたが、軍縮・不拡散をめぐる国際情勢は、積極的な方向に進行していません。他方で、勇気づけられる動きも部分的には看取されることも事実です。北朝鮮核問題と並んで核兵器不拡散条約(NPT)を中心とする核不拡散体制への重大な挑戦と位置づけられてきたイラン核問題は、昨年11月にE3+3とイランとの間で「共同行動計画」が合意されたことにより、解決に向けた協議プロセスが進行しています。また、シリアでは、昨年9月に同国が保有する化学兵器の全廃と化学兵器禁止条約(CWC)加入を受け入れた結果、現地の治安情勢が改善していない状況にもかかわらず、対象とされたすべての化学兵器の国外持ち出しプロセスが終了し、その廃棄・処理作業が進んでいます。
このような状況の下で、わが国は軍縮・不拡散に関連する国際情勢の変化を注視し、国際社会の主要なプレイヤーとして新たに積極的な役割を果たす必要があります。それは、具体的には、わが国が知恵を出し、議論をリードして機動的に国際社会の合意形成に貢献していくことです。さらに、各種の軍縮・不拡散措置の実施にわが国が積極的に関与していくことです。そのためには、官民に分散している情報、知見、技術等を一同に集積し、総合的な活用を図る必要があります。当センターはそのつなぎ役としての活動に取り組んでいく所存です。

当軍縮センターは、我が国の包括的核実験禁止条約(CTBT)批准をうけ、2002年に外務省からの委託をうけて、軍縮・不拡散促進センターが事務局を務め、以来事務局、日本気象協会及び日本原子力研究開発機構で構成されるCTBT国内運用体制を発足しています。 CTBTの国際監視制度(IMS)は、最終的に世界の321か所に地震波、微気圧振動、水中音波、放射性核種の観測地点と16か所の放射性核種公認実験所を設置することとなっており、現在までに278箇所(約82%)が認証を終えて稼働しています。一方、発効促進に向けての動きも活発化しています。CTBTは1996年に国連総会での採決を経て署名に開放されましたが、核開発能力を持つ44か国すべての批准が条約発効の要件となっています。現時点で米、中、エジプト、イラン、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮の8か国の批准が実現していません(インド、パキスタン、北朝鮮は未署名)。CTBT発効に向けて発効促進閣僚会合およびフレンズ外相会合が隔年で開催されてきており、本年は、国連総会の機会をとらえて、フレンズ外相会合が開催される予定です。

CTBT国内運用体制機関は、過去3回の北朝鮮核実験に際して、爆発を示唆する解析結果を国内の責任ある当局である外務省に迅速かつタイムリーに報告することができました。国内運用体制機関は、緊急時に備えたシミュレーションを含む統合運用試験を2010年以来今日まで合計15回実施するともに、CTBTの検証制度を支える柱のひとつである現地査察(OSI)制度の整備に向けての検討や訓練において、積極的に貢献してきています。OSIについては、今年11月ヨルダンで大規模野外演習が実施され、当センター研究員も演習に参加することとなっています。

北朝鮮核実験の観測結果は、CTBTの主要な検証ツールとして整備されてきたIMS監視網がグローバルなシステムとして十分機能していることを物語っています。さらに近年、IMS観測網でとらえられたデータの民生目的、科学目的での活用も進められています。当センターでは、2011年3月の福島第一原発事故以来、IMS高崎観測所で検出された粒子状放射性核種の放射能濃度を今日に到るまで定期的にウェブサイト上で公表し、信頼できる客観的なデータとして国内外から評価されています。世界各地で日々観測されるIMSのデータは、地震や津波を含む防災の観点でも関心を持たれており、核実験の検証という本来目的にとどまらないCTBTの重要性を図らずも日本国内ならびに国際社会に再認識させるものとなりました。

軍縮・不拡散促進センターは、CTBT国内運用体制の整備促進などに加え、軍縮・不拡散問題に関する調査研究、国内外の有識者やシンクタンクなどとの交流、諸会合への参加、軍縮教育の継続と拡充などを通じて、軍縮・不拡散を重視する日本がイニシアティブを発揮できるよう、また軍縮・不拡散の大きな進展に寄与すべく、今年も積極的に貢献していきたいと考えています。その一環として、当センターでは、核軍縮・不拡散・核セキュリティに関する主要国の動向を評価した『ひろしまレポート』を昨年に続いて今年も刊行いたしました。今年度は、ジュネーブ軍縮会議で長く交渉開始が実現できずにいる兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)を巡る諸論点を議論する研究会を発足させております。

皆様のご指導・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

2014年8月
軍縮・不拡散促進センター
所長 樽井澄夫

(注)2014年11月に予定通りにヨルダンにおいてOSI大規模野外演習は実施され、当センター大杉研究員も参加しました。